学習者の書くプロセスに、日本語のレベルの関係で妥協するのではなく、できるだけ書きたいことを書けることは、意欲的に書くことに臨んでもらうことにつながると思われる。そして学習者の書きたいことを引き出すために、スタッフが話し合う相手になり、考えていることの言語化の手助けをする必要がある。
たとえば、ある日本語を学習してから半年がたったばかりの初級学習者の例を挙げる。この学習者は日本語の授業で、「宝くじが当たったら何をしますか」をテーマにする作文を課せられた。相談の時点で何にも書いていないというケースに、とにかく書いてみて、書いたものを持ってくるように勧めるという対応も考えられる。検討の材料があるなら、対応がスムーズになると思われるからである。一方で、この学習者は書きたいことを日本語にする際にかなりの難しさを感じたため、まったく手がつけなかった状況だった。この場合、話し合うことをとおして、少しでも書けるようになり自信をつけてもらうことも一つの対応の仕方ではないか。実際に、スタッフはどんな日本語を書くかという課題から少し離れ、学習者の母語である英語と日本語を交えながら、本当に宝くじが当たったらどのようにそのお金を使うのかについて自由に話しをした。話し合いの中で「何をするのか」というような書きたいことがわかってきてから、次のステップとしてはそれをどのように日本語にするかに移った。
話し合いによって書きたいことを言語化することは、書くことへの不安を和らげるという意図がある。しかし一方で、特に日本語での意思疎通が難しいレベルの学習者にとって、そのプロセスは時には疲れとつまずきが伴うものである。その際に、対応するスタッフに必要なのは、焦らず根気よく話し合いに臨む姿勢だと思われる。それから、このプロセスのメインの目的は書きたいことを引き出すことであるため、媒介言語の使用などの意思疎通を促進する手段も考えられるだろう。